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「消費税増税と相続税」令和2年度の税制改正も要チェック。

時事ニュース

最終更新日 2022/06/17

2019年の10%消費税増税はコロナ禍の追撃を受け、納税者を悩ませています。相続財産からは葬儀費用を消費税込で、個人事業主なら準確定申告で消費税を控除できます。しかし、相続の際は令和2年度税制改正による「居住用賃貸建物の取得等に係る仕入税額控除の制限」や「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」にも注意が必要です。

賃貸住宅の消費税還付が禁止に

国税庁による『消費税法改正のお知らせ』(令和2年4月)には、「居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度の適正化」として、以下の2点が挙げられています。

1. 居住用賃貸建物の取得等に係る仕入税額控除の制限

2. 居住用賃貸建物の取得等に係る消費税額の調整

どういうことかというと、簡単に一言でご説明するなら、1は「居住用の貸家・賃貸マンション・賃貸アパートなどのその建物を仕入れた時に支払った消費税の控除や還付はしませんよ」ということです。

店舗兼貸家などの場合も、店舗部分は控除の対象になりますが、居住用賃貸部分は控除の対象から除かれます。

2に関しては、「その建物を仕入れてから課税期間3年が経過しても賃貸用として所有する場合と、課税期間3年の末日までに譲渡した場合では、消費税額の計算方法が異なる」というものです。

課税期間3年とは、3年間は課税事業者として強制適用される、いわゆる「3年縛りルール」です。本来、消費税還付を受けるためには、原則的に消費税が課税される課税事業者になる必要があります。

さらに、課税事業者が1000万円(税抜)以上の高額特定資産を取得した場合、購入後3年間は免税事業者になることが禁止されています。その間に建物を売却した場合は、売却金額に係る消費税を納税しなければいけません。

消費税還付スキームとは

なぜ、令和2年度の税制改正で消費税還付に関する見直しがされたのでしょうか?それは、長年、「消費税還付スキーム」が節税効果の大きい手法として、多くの賃貸不動産オーナーに用いられてきた背景があるからです。

本来、家賃は非課税ですので、家賃所得による消費税還付は受けられません。消費税が支払われ、納税しなければ、消費税還付はできないからです。ですが、賃貸不動産オーナーは課税事業者のため、仕入れる賃貸用住宅の建物部分に消費税が課税されます(土地は非課税)。

そこで、様々な「消費税還付スキーム」が編み出されました。

平成18(2006)年頃にブームとなったのが「自動販売機スキーム」です。自動販売機を設置することで課税売上を生み出し、課税事業者になる手法ですが、平成22(2010)年の税制改正により封じ込められました。

その後、課税事業者強制適用の期間後に居住用賃貸マンションを取得するというスキームが考えられました。「消費税課税事業者選択届出書」を提出後、個人の場合は強制期間の2年経過後、法人の場合は3期の経過後、建物を取得することで消費税還付を受けます。これは平成28(2016)年度の税制改正で封じられました。

また、「金地金スキーム」も登場しました。令和2(2020)年10月に国税当局が消費税の不正申告に関して一斉税務調査を行い、約80の法人と個人に計約40億円を追徴課税したというニュースは記憶に新しいところです。うち30億円は金地金買い取り業者2社への課税でした。消費税不正は絶対に許さないという国の姿勢を感じます。

このように「消費税還付スキーム」と国の取り締まりは、イタチごっこを繰り返してきました。しかし、ついに令和2年度税制改正によって、完全に抜け穴は塞がれる形となりました。

適用は2020年10月1日から

令和2年度税制改正による「居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度の適正化」は、令和2(2020)年10月1日以後からの適用となっています。10月以降、居住用賃貸建物の仕入れによる譲渡予定がある方は注意が必要です。

なお、令和2(2020)年3月31日までに締結した契約に基づいて、令和2年10月1日以後に行われる居住用賃貸建物の引き渡しには適用されません。

今後、貸家の相続や遺贈が行われる場合も要注意です。被相続人が賃貸オーナーだった頃のような「消費税還付スキーム」は、もう通用しないということを心しておかないといけません。

海外中古不動産による節税は不可

さらに、令和2年度税制改正により、海外中古不動産を活用した所得税の節税対策も封じ込められました。「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」という規制の創設です。

これまで、個人が海外の中古不動産を購入し、減価償却で生じたマイナスの不動産所得を国内所得と損益通算することによる節税スキームが、資産家の間で多用されてきたためです。

減価償却費の赤字による損益通算

なぜ、国外中古建物の不動産が節税スキームに活用されてきたのでしょう?

それは、第一に、海外の不動産が物件価格に対して建物の比率が高いためです。そして、第二に、長期にわたって居住することを前提として建てられているため、建物の不動産価値が落ちにくいのです。

これを日本の税制ルールに当てはめると、中古建物は経過年数分を控除することが可能です。不動産所得の赤字は他の所得と通算することが可能ですので、所得税を節税できます。

国の会計経理が適正に行われているかどうかを検査する会計検査院は、かねてよりこれを問題視していて、平成27(2015)年度に調査報告を行いました。その報告書で、会計検査院はこのように所見を述べています。

4 本院の所見

日本とアメリカ合衆国、英国等では、建物を取り巻く状況が大きく異なっているが、国外に所在する建物に対しても国内に所在する建物と同一の税制が適用されることとなっている。そして、国外に所在する中古等建物の中には簡便法に基づき耐用年数を算定したものが相当数あると見込まれる。このような背景の下、国外に所在する中古等建物について、賃貸料収入を上回る減価償却費を計上している納税者が多く見受けられる状況となっていた。また、簡便法により耐用年数を算定する場合に用いられる割合は、昭和26年に定められて以降現在まで変わっていない。

このことを踏まえると、国外に所在する中古等建物については、簡便法により算定された耐用年数が建物の実際の使用期間に適合していないおそれがあると認められる。そして、賃貸料収入を上回る減価償却費を計上することにより、不動産所得の金額が減少して損失が生ずることになり、損益通算を行って所得税額が減少することになる。

したがって、本院の検査によって明らかになった状況を踏まえて、今後、財務省において、国外に所在する中古の建物に係る減価償却費の在り方について、様々な視点から有効性及び公平性を高めるよう検討を行っていくことが肝要である。

本院としては、中古の建物に係る減価償却費について、引き続き注視していくこととする。

※会計検査院 平成27年度決算検査報告『第2 国外に所在する中古の建物に係る所得税法上の減価償却費について』より抜粋

所得税の令和3(2021)年分から適用

令和2年度税制改正により、国外中古建物による節税スキームにもついにメスが入れられました。令和2年度税制改正の大綱には、以下のように記載されています。

国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例を次のとおり創設する。

(1)個人が、令和3年以後の各年において、国外中古建物から生ずる不動産所得を有する場合においてその年分の不動産所得の金額の計算上国外不動産所得の損失の金額があるときは、その国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は、所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかったものとみなす。

(注1)上記の「国外中古建物」とは、個人において使用され、又は法人において事業の用に供された国外にある建物であって、個人が取得をしてこれをその個人の不動産所得を生ずべき業務の用に供したもののうち、不動産所得の金額の計算上その建物の償却費として必要経費に算入する金額を計算する際の耐用年数を次の方法により算定しているものをいう。

法定耐用年数の全部を経過した資産についてその法定耐用年数の20%に相当する年数を耐用年数とする方法

法定耐用年数の一部を経過した資産についてその資産の法定耐用年数から経過年数を控除した年数に、経過年数の20%に相当する年数を加算した年数を耐用年数とする方法

その用に供した時以後の使用可能期間の年数を耐用年数とする方法(その耐用年数を国外中古建物の所在地国の法令における耐用年数としている旨を明らかにする書類その他のその使用可能期間の年数が適切であることを証する一定の書類の添付がある場合を除く。)

(注2)上記の「国外不動産所得の損失の金額」とは、不動産所得の金額の計算上生じた国外中古建物の貸付けによる損失の金額(その国外中古建物以外の国外にある不動産等から生ずる不動産所得の金額がある場合には、当該損失の金額を当該国外にある不動産等から生ずる不動産所得の金額の計算上控除してもなお控除しきれない金額)をいう。

(2)上記(1)の適用を受けた国外中古建物を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算上、その取得費から控除することとされる償却費の額の累計額からは、上記(1)によりなかったものとみなされた償却費に相当する部分の金額を除くこととすることその他の所要の措置を講ずる。

※財務省『令和2年度税制改正の大綱(1/9)』より抜粋

上記の(1)にある通り、適用は令和3(2021)年からとなります。

相続登記の遅れは禁物

また、平成29(2017)年12月20日に、「民法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」(平成29年政令309号)が公布され、遺産分割に関する見直しと遺言制度に関する見直しが行われました。

それに伴って相続法が改正され、40年ぶりの大改正と注目を集めました。最も注目されたのは「配偶者居住権」ですが、「相続の効力等に関する見直し」も今後の不動産相続を考えるうえで見逃せません。

法定相続分を超える部分については、たとえ遺言書があったとしても、相続登記をしなければ保護されなくなりました。

遺言書が万能ではなくなる

改正民法では、法定相続分を超える部分に関して以下のように定められています。

第八百九十九条の二 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

※電子政府の総合窓口e-Govウェブサイト『民法』より抜粋

これまでは遺言書が万能で、被相続人が遺言書で指名すれば、その相続人は登記をしなくても第三者に権利を主張できました。しかし、令和元(2019)年7月1日以後に開始した相続からは、対抗要件(登記・登録・引き渡し)を備えなければ第三者に対抗できません。

なお、相続による権利とは、不動産に限らず、銀行預金などの債権を相続した場合にも適用されます。

ちなみに、遺言制度に関する見直しにより、自筆遺言書にパソコン等で作成した目録を添付したり、銀行通帳のコピーや不動産の登記事項証明書等を目録として添付したりということができるようになりました。

相続登記を速やかにすべき事例

民法899条の2は、相続が発生したことを知りえない人を保護するために改正されました。

例えば、いわゆる「先祖伝来の土地」といった代々にわたって所有している不動産などでよくあるのですが、被相続人も知らない間に一部が他人の名義になっている場合があります。

被相続人がこの土地をすべて第一子の所有にすると、遺言書に記し、認められたとしましょう。以前でしたら、遺言があれば第三者に対して権利を主張できました。

しかし、改正後は速やかに登記をしないと権利を主張できません。名義変更をしないまま放置しておいたために、さらに転売されたりすると、非常に複雑で面倒なことになります。

税理士が相続税申告をお引き受けする場合、相続財産の評価をするため、権利関係は入念に調査します。税制改正や民法改正により、相続税申告で配慮すべきことも増えました。

当税理士事務所では、ご相談・お見積は無料で承っておりますので、相続税に関することはお気軽にお問い合わせください。

税制改正については、こちらの記事もご一読ください。

この記事の監修者

顔写真:税理士 岡野 雄志

税理士岡野 雄志

相続税専門の税理士事務所代表として累計2,542件の相続税の契約実績。
専門書の執筆や取材実績多数あり。

相続税の無料相談受付中

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