「改正後の事業承継税制」で相続税がゼロになるってホント!?
時事ニュース
最終更新日 2022/06/27
跡継ぎがいない!日本における中小企業の現状
皆さまもうすでにご承知とは存じますが、平成30(2018)年の事業承継税制改正は、中小企業経営者の後継者不足が背景にあります。もともと平成21(2009)年に産業省令として創設された、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律等の一部を改正する法律(承継円滑化法)」の主たる支援策が事業承継税制です。
毎年の税法改正で事業承継税制も改正が繰り返されてきましたが、後継者不足が解消されているとは言えない状況です。中小企業庁の「2020年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要」によると、経営者の高齢化や後継者不足から、年間4万件以上の企業が休廃業・解散しているとのこと。しかも、このうちの約60%が黒字経営企業だそうです。
事業承継が思うように進まない理由の一つに、自社株の贈与税・相続税負担の大きいことが挙げられます。そこで、平成30(2018)年の改正で法人版事業承継税制に設けられたのが「特例措置」です。何と言っても後継者にとって大きな利点は、以下の2点です。
- 納税猶予の対象となる非上場株式等の制限(総株式数の最大2/3まで)撤廃
- 納税猶予割合80%→100%へ
一定の条件を満たせば、後継者の全持ち株が贈与税や相続税の納税猶予の対象となり、しかも、納税が100%猶予されるというのですから、これは見逃せません。さらに、事業の継続が困難な事由が生じた場合は、適用要件を満たせば納税猶予額が免除されます。
これが、改正後の事業承継税制で相続税がゼロになると言われている根拠ですが、もちろん適用にはさまざまな厳しい条件が設けられています。「特例承継計画」の策定も、その一つでしょう。
経営状況が悪化…後継者となった相続人の悩み
Tさんは、お父さまが経営される食品製造会社の全株式が贈与され、事業承継税制の特例を受け後継者となりました。今年に入り、お父さまが他界されて相続が発生し、Tさんが取得された株式等に課せられる贈与税は相続税に吸収され、100%猶予されることになりました。
ここまでは、いわば事業承継税制の特例措置の成功例です。お父さまの贈与計画通りの筋書きで、めでたしめでたしとしたいところですが、そこが事業承継の難しさです。現在、Tさんを悩ませているのは、コロナ禍による業績不振です。
2020年に入ってから瞬く間に感染が拡大した新型コロナは、国内だけでなく世界の経済状況を一変させました。感染拡大防止策としての外出自粛は、外食産業に大きな打撃となりました。その影響はTさんの食品製造会社にも波及し、経営の方向性を見失わせています。
もちろん、Tさんも覚悟をもって事業を承継された訳ですが、新型コロナの感染拡大は世界的且つ歴史的にも未曽有の危機的状況です。Tさんご自身はもちろん、被相続人であるお父さまも、ここまでの状況は予測し得なかったとしても無理からぬことと思われます。
「事業承継税制」では、贈与者(このケースではお父さま)が亡くなった場合、贈与税の納税猶予が免除となります。また、申告期限後5年間において、やむを得ない理由により後継者が代表権を失った場合、その日以降に後継者が猶予継続贈与を行うことができます。
Tさんは上記のやむを得ない理由の措置により、役員の一人である妹さんに代表権と自社株を猶予継続贈与したいとお考えでした。もちろん、税務としては可能です。しかし、事は会社経営、ひいては日々の事業業務に関わります。Tさんの会社では連日のように役員会議で議論が交わされました。
その間、税理士にはやるべき役目があります。相続税は事業承継される財産にのみ課せられるのではなく、相続財産全体に課せられます。Tさんは事業承継だけでなく、お父さまの預貯金や不動産も相続しておられましたが、妹さんに事業承継が移れば、遺産分配も変わる可能性があります。当事務所では「訂正申告」に備え、事業承継以外の財産の評価から急ぎ着手いたしました。
結論から申しますと、社長となることを固辞されていた妹さんも折れ、経営者となる覚悟を決められました。ただし、Tさんは会長に退かれましたが、代表権は継続されることになりました。現在は、Tさんから妹さんへの贈与計画にあたり、「特例承継計画」を作成中です。
この記事の監修者
税理士岡野 雄志
相続税専門の税理士事務所代表として累計2,542件の相続税の契約実績。
専門書の執筆や取材実績多数あり。
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