現金の相続は相続税負担が大きい?注意点や、土地の方がいい理由
相続の発生前
最終更新日 2023/04/11
この記事では、現金を相続する際の注意点や、メリット・デメリットなどについて解説します。
現金は手元にあるお金で、預貯金は銀行に預けているお金。双方の違いについて聞かれたらきっと多くの方がこのように答えるのではないでしょうか。
銀行のATMなどで引き出しをすれば、預貯金をすぐに現金化できることもあり、普段の生活では現金も預貯金も「お金」として扱われています。
ところが、遺産として考えた場合、法律上、現金は「物」として区分され、預貯金は現金を預けている金融機関に対して現金を引き出すことができる「権利」として区分されます。
相続が発生した時点で「現金」は共有財産になる
被相続人が亡くなり相続が発生した時点で、現金をはじめ遺産はすべて法定相続人の共有財産となります。
被相続人である親と子が同居していた場合、金庫などで保管している現金や預貯金など、お金の管理を子どもが任されているケースもあると思いますが、相続が発生した時点で、相続人のひとりが勝手にお金を利用することはできません。
葬儀代や医療費の支払いなどで現金が必要になる場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、協議書に基づき精算する必要があります。
「現金」を相続する場合、額面がそのまま課税対象になる
現金を相続する場合は、現金の額面がそのまま課税対象となる相続財産として評価されるのに対して、不動産の場合、時価よりも低い金額で課税対象となる相続財産が評価されることが多く、その分相続税が安くなる可能性があります。
建物の場合:相続税評価額は固定資産税の評価額と同額(建築時から減価償却)
例えば、5,000万円の現金と、時価5,000万円(相続税評価額4,000万円)の価値がある不動産をそれぞれ相続する場合、現金で相続する場合は相続財産が5,000万円であるのに対し、土地として相続する場合は4,000万円となるため、その分、相続税が安くなります。
また、土地については要件を満たせば小規模宅地の特例の適用により、さらに評価額を下げることも可能です。
「現金」を相続する場合、メリットはある?
相続税評価額で見ると現金より不動産で相続するほうが有利に思えますが、土地の評価額が下がる場合でも、基本的には、相続税は現金で支払うため、現金が足りなくて土地を売却しなくてはならないケースがあります。
現金で相続する場合のメリットとして、こうしたケースで資金繰りをしなくて済むことや、冒頭でも触れたように相続分として不動産よりも圧倒的に分けやすいことが挙げられます。
相続税がかかるのはいくらから?
相続税申告は、相続した遺産の総額が相続税の非課税枠である「基礎控除」の範囲を超えている場合にその義務が発生します。相続した遺産の総額が基礎控除額の範囲内なら、相続税がかからないなため、相続税申告の必要はありません。
「基礎控除」の計算方法
基礎控除の額は3,000万円を基本とし、相続人が増えるごとに600万円ずつ増えていきます。例えば、相続人が1人の場合は3,000万円+600万円=3,600万円。2人の場合は3,000万円+1,200万円=4,200万円。3人の場合は3,000万円+1,800万円=4,800万円となります。
相続した遺産の総額が基礎控除額を超えている場合は申告が必要となるので、申告期限までに相続税を申告・納付しなくてはなりません。
相続税の計算:法定相続分(課税対象額)に応ずる取得金額と税率・控除額
相続税は、相続する財産の金額によって税率や控除額が異なります。
相続財産(現金や不動産等)にかかる税率は以下の通りです。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下の場合 | 10% | なし |
3,000万円以下の場合 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下の場合 | 20% | 200万円 |
1億円以下の場合 | 30% | 700万円 |
2億円以下の場合 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下の場合 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下の場合 | 50% | 4,200万円 |
6億円超の場合 | 55% | 7,200万円 |
参考:国税庁「相続税の税率」
「現金」は「不動産」に比べて相続税が高くなる?
不動産は、現金よりも相続税が安くなるといった特性から、被相続人のなかには生前に不動産を購入される方も少なくありません。
現金を相続する場合と、その金額に見合った不動産を相続する場合、実際どれくらい違いがあるのでしょうか。ここでは、親の財産を子ども1人が相続するケースとして、5,000万円の現金と、時価5,000万円(相続税評価額4,000万円)の価値がある不動産を相続する場合、それぞれにかかる相続税を見てみましょう。
5,000万円の「現金」を相続する場合の相続税は?
5,000万円の現金を1人が相続する場合、3,600万円の基礎控除額が受けられるので、法定相続分に応ずる取得金額は1,400万円、かかる税率は15%、控除額が50万円、相続税は160万円となります。
5,000万円の「土地」を相続する場合の相続税は?
時価5,000万円の土地について仮に当該土地の相続税評価額が4,000万円である場合、基礎控除額を引くと法定相続分に応ずる取得金額は400万円となるため、かかる税率は10%、控除額は無く、相続税は40万円となります。
また、当該土地が被相続人の居住用宅地である場合、小規模宅地の適用要件を満たせば、相続税評価額をさらに80%減額することができます。
当該土地の相続税評価額の4,000万円が800万円まで減額され、基礎控除額(3,600万円)がその額を上回るため、相続税は0円となります。
4,000万円×(1-80%)=800(万円)
800万円-3,600万円=-2,800(万円)→0円
小規模宅地等の特例を受ける場合、相続税額が0円であっても、相続税申告は行う必要があります。
以上のことから、現金を相続する場合の相続税は、不動産を相続する場合と比べて高くなる可能性があることがわかります。
相続税申告の際は「タンス預金」に注意!
被相続人の財産を相続する際は、まずは「相続人」と「相続財産」について確認します。相続人は、遺言書が残されていれば遺言の通りとし、遺言書がない場合は民法で定められたルールに則って「法定相続人」を確定させます。
そして、「相続財産」がどれくらいあるか、被相続人が所有していた全財産について確認する必要があります。現金や預貯金は、自宅の金庫や、通帳や銀行口座などを確認しますが、このとき注意したいのが、自宅のタンスなどに保管してある財産「タンス預金」の存在です。
「タンス預金」とは?
預貯金として銀行などに預けず、自宅で保管しているお金のことを「タンス預金」といいます。タンス以外にも、押し入れやベッドの下、冷蔵庫などでさまざまな保管場所がありますが、もともと自宅で保管する場合はタンスに入れておくことが多かったことから、このように呼ばれています。
銀行が倒産する可能性がゼロではない時代、銀行に預けるよりもすぐに使えるお金を手元においておきたいと考える人も多いのではないでしょうか。ですが、こうした「タンス預金」に気づかず相続税申告してしまうと、税務調査が入ったり、過少申告加算税や延滞税などのペナルティーが課せられる恐れがあります。
現金の相続税申告漏れがあったときのペナルティーとは?
相続税を申告したあとで、タンス預金の存在に気づいた場合は、すぐに税務署に連絡をして修正申告する必要があります。
実際、被相続人が保管していたタンス預金に相続人が気づかないケースがあるため、気づいた時点で(税務調査が入る前に)申告すれば過少申告加算税が免除されます(延滞税はかかります)。
これに対し、税務調査が入ってから修正申告をする場合、延滞税や過少申告加算税などのペナルティーが課せられます。また、タンス預金の存在に気づいていながら意図的に税金逃れのために申告しなかった場合には、過少申告加算税ではなく重加算税が課せられ多額な納税額を支払うことになるので注意しましょう。
現金で相続した財産は確定申告が必要?
相続により取得した現金は相続税所得に該当しないため、確定申告の必要がありません。しかし、相続で得た財産の運用により取得した現金については相続財産ではなく所得となるため、確定申告が必要になります。
確定申告が必要なケース(例)
- 収入を生む賃貸不動産を相続し、賃貸収入を得た場合
- 不動産や株式などを売却し、譲渡益を得た場合
また、被相続人が受給していた国民年金や厚生年金を、遺族年金として相続人が代わりに受給した場合も、相続財産ではなく相続税所得となります。その他、企業年金や退職金(契約により)などを受け取る際も、契約の内容によっては、確定申告が必要なケースがあるので注意が必要です。
相続税申告は、相続発生時の現金残高で申告
相続税の申告は、相続が発生した時点での現金残高で申告するため、相続人全員で遺産分割協議を行い、他の相続人との間で協議がまとまっていれば、現金を使用することができます。
現金を相続する場合、相続が発生した時点での現金残高が重要となるため、「タンス預金」なども含め相続財産がいくらあるのか、しっかりと確認するようにしましょう。
このように現金を相続する場合にも、事前に知っておきたいことで役立つ知識があります。
相続税申告について、ご不明点などがある方は、ぜひ相続税申告の専門家にご相談ください。
まとめ
- 法律上、現金は「物」、預貯金は現金を引き出せる「権利」として区分される
- 相続が発生した時点で現金は共有財産になる
- 現金を相続する場合、額面がそのまま課税対象になる
- 現金を相続する場合、時価が同額の不動産を相続するより相続税が高くなることがある
- 相続税は現金で支払うため、不動産を相続する場合、資金繰りをしなくてはならないケースもある
- 相続税は基礎控除の範囲を超えたときに申告に義務が生じる
- 相続財産を確認するときは「タンス預金」に注意
- 収入を生む賃貸不動産を相続して賃貸収入を得た場合や、不動産や株式などを売却して譲渡益を得た場合には確定申告が必要となる
- 相続税申告は、相続発生時の現金残高で申告する
- 現金の申告漏れに気づいたら一刻も早く税務署に連絡を入れる
- 税金逃れが判明した場合、多額な納税額を支払うことになる
この記事の監修者
税理士岡野 雄志
相続税専門の税理士事務所代表として累計2,542件の相続税の契約実績。
専門書の執筆や取材実績多数あり。
相続税の無料相談受付中
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