「海外不動産で高額相続税」に!? 封じられた節税スキーム
相続の発生前
最終更新日 2023/04/06
高額所得者に多用された海外不動産投資の節税スキームとは
日本は「地震大国」として知られます。また、伝統的な日本家屋は「紙と木でできている」といわれるように、耐久性よりも四季の移ろいに応じた快適性や美意識が重視されてきました。そのため、家屋に対する価値観が日本と欧米諸外国では大きく異なります。
さらに、国土の狭い日本では不動産の資産価値は土地のほうが高く、割合として土地8:建物2の関係になることが一般的です。一方、建物は半永久的に住めるという価値観の米国では、州によって違いはありますが、土地2:建物8の関係になるといわれてます。
減価償却の対象は建物となるため、建物の価値が高い米国不動産のほうがより多く、より長く減価償却できます。例えば、築22年の木造家屋を購入したとしましょう。日本の制度では、耐用年数は(22年-22年)+22年×20%=4年。一方、米国の制度では、新築・中古にかかわらず耐用年数は27.5年です。しかも、日本では築年数を経るほど売却価格は下がる傾向にありますが、中古物件をリフォーム&メンテナンスして住む習慣のある欧米では価格が安定しています。
減価償却費は所得税の計算上、経費として計上できますので、ここ数年、所得額の大きい富裕層の間では米国不動産に投資する人が増えてきました。
減価償却費の赤字による損益通算については、当サイトのコラム『「消費税増税と相続税」令和2年度の税制改正も要チェック』をご参照ください。
海外不動産の節税策には令和3年分確定申告から規制がかかる
しかし、会計検査院から平成27年度決算検査報告で「中古海外不動産に対し、日本の減価償却の簡便法を適用するのは合理的ではない」と指摘され、令和2年度税制改正で海外不動産を活用した節税スキームが封じ込められました。会計検査院とは、国の会計経理を検査・監督する、国会・裁判所・内閣からも独立した憲法上の機関です。
国外中古建物について、簡便法で算定した短い耐用年数による、多額の減価償却費の計上から生じる損失はなかったものとみなされることになりました。つまり、その損失と、給与所得や事業所得を通算することによる税額軽減はできなくなったのです。
この改正は令和3(2021)年以降、各年の確定申告に適用されることになりましたが、我々専門家も驚いたことに、既存の中古家屋も規制の対象となったことです。つまり、新たに取得する不動産だけでなく、すでに所有している不動産家屋も対象なのです。
前項でも述べた通り、米国不動産は中古でも価格が安定的です。そのうえ、ここ数年、住宅価格が上昇し続けています。令和2年度中に売却できれば、何とか逃げ切ることもできたでしょう。
しかし、所有している米国不動産を売却できないうちに所有者が亡くなり、相続が発生するとどうなるでしょう?
米国不動産の遺産税は高額?! 日米双方の専門家サポートも必要
米国不動産は、確かに所有者が存命のうちは多額の所得があれば節税対策になります。しかし、所有者の相続が発生すると、「負の遺産」になりかねません。なぜなら、被相続人がアメリカ国籍のない非居住者である場合、多額の「遺産税」が課せられてしまうからです。
しかも、米国に所有する資産の相続や分割には、「プロベート(probate)」という裁判所管理の元に行う法的手続きを要します。プロベートは米国だけでなく、英国、カナダ、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドなどでも必要です。
通常、プロベートには1~3年要するといわれ、米国であれば州によって異なりますし、スムーズにいかなければ何10年もかかる場合もあります。複雑な申告手続きを経なければならず、専門知識も必要ですので、恐らく米国で弁護士を雇うことになるでしょう。
米国不動産を売却して遺産税を支払おうと思っても、このプロベートを行わなければ名義変更もままなりません。そのうえ、米国の遺産税納付期限は相続開始から9ヵ月後です。不動産を現金化する前に多額の遺産税を納めなければいけないことになります。
ただし、日本国内の居住者が申告を行う場合、米国遺産税と日本の相続税の二重課税になってしまうのを回避するため、「外国税額控除」という制度が利用できます。日本の相続税から一定額を差し引くことができる制度です。
相続税申告の際の外国税額控除に関する手続きについては、国税庁『『外国税額控除の適用を受けられる方へ ~ 相続税申告書第8表「1 外国税額控除」の「⑧ 控除額」の相続税申告書第1表「外国税額控除額 ⑰」欄への転記について ~』』をご参照ください。
また、米国では夫婦間贈与は無制限で行えます。法定相続人が配偶者であれば、この制度が生前贈与として利用できました。ただし、受取人である配偶者が米国市民である場合に限られます。
米国居住者でない場合、その米国不動産を「含有不動産名義(Joint Tenancy with Right of Survivorship)」にするという方法もあります。複数の個人あるいは事業体が均等に持分を取得する方法です。相続が発生した場合、相続手続きをしなくても残った所有者へ均等に権利が移行します。
被相続人が存命中であれば、方策の選択肢は数多くありますが、相続が発生してからでは、相続人が重い負担ばかり背負い込むことになりかねません。海外不動産投資されるなら、いずれ必ず発生する相続税対策も併せて考えておくべきでしょう。
この記事の監修者
税理士岡野 雄志
相続税専門の税理士事務所代表として累計2,542件の相続税の契約実績。
専門書の執筆や取材実績多数あり。
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