「令和3年度 税制改正要望」が公表!相続税減税の可能性も。
時事ニュース
最終更新日 2022/06/17
そもそも税制改正までの流れとは
税制は国庫の状況だけでなく、経済状況や私たちの家計状況を常に反映しています。
そのため、毎年、税制改正が行われています。
税制改正の要望は、そうした行政や経済界の声を税制に反映するための重要なステップです。
では、そもそも税制改革とは、どのような流れで成立していくのか見てみましょう。
(1)政府税制調査会(政府税調)
内閣府の審議会等の一つで、内閣総理大臣の諮問に応じて、租税制度に関する基本的事項を調査審議するものです。何度か撤廃されましたが、2013年2月1日に内閣府本府組織令が改正されると同時に新たな税制調査会令が公布されました。
(2)税制改正要望
各省庁からの税制改正要望が財務省に集められます。
例年でしたら、8月末までに収集され、9月から10月にかけて取りまとめられますが、令和2(2020)年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、令和3年度税制改正の要望は1カ月ほどずれ込みました。
(3)政府税制調査会による議論
各省庁からの要望を受けて、学者や識者などが税制のあり方について議論し、翌年の税制改正について方向性を示します。
(4)与党税制調査会による議論
さらに、与党(2020年現在は自民党と公明党)が「与党税制改正大綱」をまとめるため議論し、絞り込みを行います。
(5)与党税制改正大綱の発表
正式な税制改正法案の元となる税制改正大綱を与党が取りまとめます。
大綱を見れば税制改革の内容が大体わかるというもので、ニュースや税務関係の情報誌でも取り上げられます。
この後ほどなく、各省庁から税制改正に関する解説資料も公表されます。
(6)政府税制改正大綱の発表
与党税制改正大綱をベースとして、財務省と総務省が「政府の税制改正大綱」と「地方税制改正案の概要」を取りまとめ発表します。例年では、12月下旬頃となります。
(7)税制改正法案の公表
年をまたいで1月下旬~2月中旬頃、税制改正法案が財務省のホームページに掲載され、公表されます。
地方税制改正案は総務省のホームページに掲載されます。
(8)国会での審議・採択を経て施行
税制改正法案が政府から提出され、1月開催の通常国会で審議されます。
修正などは行われず、採択するかどうかだけが議論されます。
衆議院、参議院の審議を経て、通常のスケジュールなら、3月末には国会で承認され、4月1日に法律が施行されます。
相続税に関連した令和3年度の主な要望
各省庁による令和3年度の税制改正要望は、財務省のホームページで確認できます。
その中から、相続税に関連した要望をピックアップして一覧にしました。
項目名 | 要望の内容 | 省庁 | 税目 | |
---|---|---|---|---|
1 | 上場株式等の相続税に係る見直し | 高齢者が老後の資金のために蓄えた資産を安心して保有し続けることのできる環境を整備する観点から、上場株式等について、相続税の見直しを行うこと。 | 金融庁 | 相続税 |
2 | 死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げ | 死亡保険金の相続税非課税限度額について、現行限度額※に「配偶者及び未成年の被扶養法定相続人数×500万円」を加算すること ※法定相続人数×500万円 |
金融庁 | 相続税 |
3 | 国際金融ハブ取引に係る税制措置 | 国際金融ハブ取引について、金融事業者・高度金融人材が日本に参入しやすくするための税制上の措置を講ずること。 | 金融庁 | 所得税、相続税、贈与税 |
4 | 美術品市場の活性化のため現代美術品の寄託に係る相続税の特例措置の拡充 | 特定の美術品についての相続税の納税猶予及び免除に係る特例措置(租税特別措置法第70条の6 の7)の対象に、一定の美術品(現代美術品)を追加する。 | 文部科学省 | 相続税 |
5 | 基金拠出型医療法人における負担軽減措置の創設 | 持分なし医療法人への移行を促進するため、持分有医療法人から基金拠出型医療法人へ移行する際に、当初出資金を超える部分に課税される「みなし配当課税」について、基金が払い戻しされるまでの間、納税猶予する党の措置を講ずる。※医療法施行規則第30条の37及び第30条の38 | 厚生労働省 | 所得税、相続税、贈与税 |
6 | 個人版事業承継税制における法人化の際の救済措置の拡充 | 個人版事業承継税制により相続税・贈与税の猶予を受けている医療機関が、医療法時を設立する場合に継続して納税猶予が受けられるよう、相続税・贈与税の負担を軽減する措置を講ずる。 | 厚生労働省 | 相続税、贈与税 |
7 | 医療保険制度改革に伴う税制上の所要の措置 | 全世代型社会保障検討会議、社会保障審議会、医療保険部会等における時期医療保険制度改革に関する検討を踏まえ、医療保険制度における税制上の所要の措置を講ずる。 | 厚生労働省 | 所得税、法人税、相続税、贈与税、地価税、印紙税、登録免許税、消費税、たばこ税、国税徴収法 |
8 | 福島復興再生特別措置法による被災 12 市町村における農地の利用集積等の促進のための税制上の所要の措置 | ・令和2年通常国会で可決・成立した「復興庁設置法等の一部を改正する法律」のうち、福島復興再生特別措置法(平成 24 年法律第 25 号。以下「福島特措法」という。)において、原子力被災12市町村の農地集積を促進する観点から、従来市町村が作成していた農地利用の集積計画について、福島県でも作成できるよう措置された(福島特措法第 17 条の18~32) ・このことから、市町村が作成する農用地利用集積計画により農地中間管理機構を活用して農地の賃借権の設定等を行った場合の現行の税制特例の措置について、福島特措法に基づき原子力被災 12 市町村において福島県が、農用地利用集積等促進計画を作成する場合についても同様の特例が受けられるよう、所要の措置を講ずることを要望する。 |
農林水産省 | 所得税、法人税、贈与税、相続税、登録免許税 |
9 | 国際金融センターの確立に向けた税制上の所要の措置 | 国際金融ハブ取引について、金融事業者・高度金融人材が日本に参入しやすくするための税制上の措置を講ずること。 | 経済産業省 | 所得税、法人税、相続税 |
10 | 非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度の見直し | 2025年までに70 歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人であり、うち約半数の127万人が後継者未定とされているところ。現状を放置し中小企業の廃業が急増すると、10 年間の累計で約650 万人の雇用と約22兆円の GDPが失われるおそれがある。こうした中で、平成30年度税制改正において、非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除制度(事業承継税制)について、10年間の特例措置として、各種要件の緩和を含む抜本的な拡充が行われたところ。また、令和元度税制改正においても、手続きにおいて、一定の添付書類を不要とする等、手続きの簡素化等が行われたところ。また、令和元年度税制改正において青色申告を行っている個人事業者を対象に、個人の事業用資産に係る贈与税・相続税の納税猶予制度(個人版事業承継税制)が創設されたところ。 法人版事業承継税制については、中小企業経営者の高齢化を踏まえ、後継者の役員要件の緩和、その他の所要の見直しを行うことにより、制度のより一層の活用促進を図る。 個人版事業承継税制については、対象となる特定事業用資産の緩和、その他の所要の見直しを行うこと等により、制度の更なる活用促進を図る。 |
経済産業省 | 相続税、 贈与税 |
11 | 相続税等の納税猶予を受けた農地を公共事業の用に供するために譲渡 した者に対する利子税の免除特例措置の延長 | 相続又は贈与により農地を取得した相続人又は受贈者は、引き続き農業を継続し、納税猶予分の額に相当する担保を提供した場合に限り、相続税又は贈与税の納税猶予が受けられ、当該農地を土地収用法対象事業等のために譲渡した場合には、譲渡する面積に応じた相続税又は贈与税及び納税猶予期間中の利子税の1/2を納付しなければならないこととなっているが、平成26年度税制改正において平成26年4月1日から令和3年3月31日までの間は全額免除とされている。 相続税又は贈与税の納税猶予を受けた農地を公共事業の用に供するために譲渡をした者について、納税猶予期間中の利子税を免除する期間を延長(7年間)することにより、公共事業の円滑かつ迅速な推進を図る。 <関係条文:租税特別措置法第 70 条の8第1項、第3項> |
国土交通省 | 相続税、贈与税 |
令和2年度の税制改正は、所得税、租税特別措置法、法人税法、国際課税関係、消費税法等の改正が中心でした。また、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置を講ずることが、令和2(2020)年4月20日に閣議決定されました。令和2年度に比べると、相続税に関する要望が増えている傾向にあります。特に注目したいのが、上記の表の3と9の要望です。すでに新聞やネットニュースでも話題となっていますので、関心を寄せられている方も多いことでしょう。
相続税減税の可能性を生む背景
新型コロナ禍により、活況を呈していた日本の求人市場は180度暗転し、急速に冷え込んでいます。
しかし、長い目で見ると、日本の労働力人口は2023 年を境に2024年からは減少に転じると予測されています。
また、日本が国際経済社会で生き抜いていくには、「高度外国人材」の獲得が欠かせません。高度外国人材とは、学術研究活動、専門・技術活動、経営・管理活動において高度な知識や技能を発揮できる外国籍人材のことです。
ところが、こうした高度外国人材を確保しようとする際、意外なことが障壁となっています。日本の相続税の最高税率は55%。米国40%、ドイツ30%、フランス45%に比しても高く、シンガポール、マレーシア、オーストラリア、カナダ、香港は自国・地域内の資産に相続税は課せられません。
さらに、被相続人の外国人が、過去15年以内での日本滞在歴のうち、「通算10年以下」なら相続税が課せられるのは日本国内の資産だけになります。けれど、「通算10年超」なら海外に保有する資産も課税対象になってしまいます。
こうした高い相続税が壁となって、キャリアを積んだ高度外国人材ほど「日本に骨を埋めたい」とは思えなくなってしまっているのです。
実は、上記の「10年ルール」は、平成29(2017)年度税制改正時に5年から10年へと改められたものです。国内財産を国外財産に転換し、相続税課税を回避するというのを防止するために10年へ延長されました。
日本国内にある財産を相続した場合、相続人の日本への居住・非居住を問わず、また日本人か外国人かに関わりなく、原則として相続税が課税されます。世界に比しても高い相続税の税率が引き下げられたり、相続税に新たな特例や控除が設けられたりするのは、日本人にとっても歓迎すべきことです。
国内と国外の両方に資産がある場合の相続、被相続人や相続人が海外に居住している場合などの相続も、相続税申告に経験と実績が豊富な当税理士事務所にぜひご相談ください。
この記事の監修者
税理士岡野 雄志
相続税専門の税理士事務所代表として累計2,542件の相続税の契約実績。
専門書の執筆や取材実績多数あり。
相続税の無料相談受付中
岡野雄志税理士事務所は、ご相談やご契約の99%以上が相続税の国内でも数少ない相続税を専門に取り扱う税理士事務所です。
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